蝉の抜け殻
幹にしがみついている蝉の抜け殻を眺めてて気になった事をすこし。
欅の木陰で涼んでいて、御神木の幹に蝉の抜け殻が鈴鳴りになっているのに気付いた。
子供の頃なら問答無用で二つ三つを掴み取り、Tシャツにひっつけて帰るところであるけれど、よくよく見ると馴染み深いアブラゼミの抜け殻だけではないようだ。
思えばここ数年くらい、アブラゼミよりミンミンゼミや場合によってはクマゼミの声の方がやかましい。
30年前くらいの多摩周辺では圧倒的にアブラゼミ優位だったのだが、勢力図が変わってきているらしい。話によると、西日本から楠を街路樹や公園に植樹した際に、クマゼミらの幼虫も連れてきたとか。
アブラゼミの声は夏の暑さを割増していたものだけれども、今やミンミンと鳴く声が降り注いでいて、いくらかマシと思いたい。今年の酷暑の前では蝉の声も霞むけれども。
目の前の抜け殻群に話を戻すと、それらは大体膝頭から大人が手を伸ばして届くくらいの高さにあると言えば、経験上概ね納得できると思う。
しかし、観察してみると少し差異がある。
差異というのは、種類によって高さが違うようだからだ。
茶褐色でお馴染みのアブラゼミの抜け殻は低い位置に多く、ややベージュがかった色味のミンミンゼミらしき抜け殻は目線より高いところにも残っている。もっと言えば、かなり上方、二階の屋根くらいの高さまで登っているのもあった。
この差は何なのか。大きさ、つまり重量によるのだろうか。
アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミは大きさに差はない。ツクツクボウシのような小型の蝉の方がより高く登るのかとも思えるが、周囲で鳴き声は聞こえないから、高所の抜け殻はツクツクボウシ以外の可能性が高い。
それにしても、一体なにが彼らをその高さまで駆り立てるのか。数年間土の中で過ごし鬱屈したエネルギーが暴発したとでも言うのだろうか。
羽化には多大なエネルギーを使うだろう。それにも関わらず、重力に抗って上へ上へと登るのは何故か。
羽化の最中は完全に無防備だから、邪魔をされないように天敵が少なそうな高所を選ぶのだろうか。そうであるなら、個体差がこうもバラつくのはどうしてか。
昼下がりの神社の境内で、そんなことを考えた。
なにかとやかましい蝉だけれども、海外では幸運のシンボルとされ、ことに中国では復活、再生の象徴で、皇帝を埋葬する際には翡翠製の蝉を共に埋めたという。
喧しい鳴き声だけれど、網戸に蝉が突っ込んでくるのは幸運の兆しかも?