Fortes fortuna adjuvat

運命の女神は 心強きひとに微笑み 心挫けたひとに手を差し伸べる

三方一両損とはいうものの、みんな得してるし、結局は「徳」にまつわる話だった件

 

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 今日はちょっと面白い記事(所ジョージ 番組に「愛の説教」)があったので、それを紹介しながら、「徳」について話してみようと思います。

 

 

記事についてざっくりと言えば、タレントの所さんが番組作りというか映像の撮り方に苦言を呈したという話。

大御所芸能人あるある話ではありますが、その中で、所さんが興味深い言い回しをしていました。

(以下「」内は記事からの引用)

 

「(映像の)作り方の知恵を用意すれば、番組も出演者も両方、得するでしょ?(中略)僕は、お茶の間の人に『なんだよ、この番組』って思われたくないんだ。ほかの出演者も損しちゃうし」

 

このコメントには、所さんの番組作りへの姿勢が現れていますよね。

 

つまらない番組をつくると、番組も損、演者も損、時間を割いて見てくれてるお茶の間も損。

おまけに言えば、この話を聞きつけてやってきた記者に長々とインタビューされて、所さんも時間の損。

 

ともあれ、言い換えれば、みんなが得するように心を砕くという仕事への姿勢は、はっきりしていますよね。

 

さて、このみんな損してるという話、どこかで聞いたことありませんか?

 

僕は古典落語の「三方一両損」を思い出しました。大岡裁きの噺です。

こちらもざっくりまとめると──

 

三両の金を拾った男が、落とし主に返そうとする。ところが、もはや諦めていたものだから、金は受け取らないと落とし主は言い張る。しかし、拾った男も是が非でも返すと言って聞かない。江戸っ子同士が互いに大金を押し付け合う争いは、奉行所に持ち込まれ、大岡越前守が裁くこととなる。

 

双方の言い分を聞いた大岡越前守は、どちらの言い分にも一理あると認めた上で、自らの一両を加えて四両とし、二両ずつ白州の二人に分け与える裁定を下す。拾った男は三両拾ったのに二両しかもらえず一両損、落とした男は三両落としたのに二両しか返ってこず一両損、そして大岡越前守は裁定のために一両失ったので三方一両損として双方を納得させる──

 

さてこの「三方一両損」の噺、みんな一両損しているようで、実は得をしていますよね。

 

落とした男は言わずもがな、拾った男も義理堅く返してしまえば(相手がすんなり受け取ってしまったら)、手元の三両がふいのところを二両が戻って来た。

運が悪ければ二人ともゼロのところを、二両も得ている。一見損のようで、幸運にも得している訳です。

 

でも大岡越前守だけが損をしてない? 

 

いえいえ、彼もしっかり得をしているじゃありませんか。ポケットマネーを一両喜捨することで、令和の世にまで名声を残したのですから。

 

そして、この話で一番大事なのは、誰も業を背負わないということ。

 

例えばこの後日談的な位置づけで、三方一両得、なんて噺があったりするらしいですが、これは大岡越前守が一両逆に懐へ入れてしまい、全員が一両得をするという話。

 

こちらは一見得のようでいて、欲目からのしこりが残る。執着が残る。

少なくとも、これでは落とした男は、失った金に意識が無駄に囚われて、時間が無為に費やされてしまうでしょう。

 

ところが、三方一両損では、みなポジティブに裁きを受け入れることができる。

 

それは全員が得をするように大岡越前守が配慮したからです。

 

言い換えれば、得をするように配慮したというより「徳」を積んだのです。

占術的な観点からみれば、この噺は積陰徳に通じています。

 

拾った男はネコババしないで正直に届け出た。

落とした男は金への執着を飲み込んだ。

 

二人は意識してこれらの徳を積んだ訳ではないでしょう。それがかえって陰徳となり、大岡裁きの機会を得て、二人は大いに納得した訳です。

 

もちろん、大岡越前守は喜捨をしたという徳もありますが、とにかく関係者が得をする、前向きになるように知恵を絞った。この思考が、三方一両損として裁定を成功に導いたと言えます。これが成功者のマインドなのです。

 

徳を積むというバックグラウンドのもとで、自分を含め関係者が得をするよう最善を尽くすことが重要なのです。

 

所さんの話に戻すと、そっくりそのまま、このマインドが当てはまりますよね。所さん、いまだに成功を収めていますから。

 

それに、件の記事のために長々とインタビューされて、所さんも時間の損なんて書きましたが、大岡越前守よろしく、しっかりと株を上げて所さんも得をしているという点も見逃してはいけないところです。